世界の茶摘み歌

自然や恋愛を歌う素朴な歌から労働の過酷さを訴える歌まで。世界の茶どころに伝わるワークソングを紹介します。

01 台湾

客家(ハッカ)の採茶歌(ツァイチャーゴー)とツォウ族のポリフォニー

苗栗(ミャオリー)県など台湾中部に多く住む客家系住民が働きながら歌うのが「山歌(シャンゴー)」。そのなかで茶摘みに特化した歌が「採茶歌」です。地域によってさまざまなバリエーションがありますが、茶摘み作業中の遊びや癒やしとして、また異性を喜ばせるための感情の表現として、労働、恋愛、人生観などが男女による掛け合いで即興的に歌われます。一方、阿里山(アリサン)などの高地に住む先住民族・ツォウ族の歌は多重合唱(ポリフォニー)が特徴で、まるでゴスペルのような荘厳な響き。霧深い高山茶の茶園には、神や自然への敬意を込めた歌声が響き渡ります。

02 中国

多様な民族が春の訪れを歌う

広い中国では、地域ごとにさまざまな言語と旋律で茶摘み歌が歌われています。江西省(こうせいしょう)、湖北省(こほくしょう)、浙江省(せっこうしょう)など、中国中南部から東部の茶産地では、古くから茶摘みの労働歌が親しまれてきました。これらの歌は後に、各地の伝統芸能「採茶戯(さいちゃぎ)」や、中国五大戯曲の一つに数えられる「黄梅戯(こうばいぎ)」へと発展した歴史を持ち、明るく伸びやかな旋律を特徴としています。一方、雲南省(うんなんしょう)の少数民族・ハニ族の茶摘み歌は、祖先が植えたチャノキの葉を山の精霊とともに摘むといった内容の歌詞で、芦笙(ろしょう)や月琴(げっきん)といった民族楽器の伴奏で踊りながら歌い継がれています。

03 ケニア

躍動感あふれるビートで大地を揺らす

アフリカ最大のお茶の産地、ケニア。多民族国家であるこの国では、歌のスタイルもさまざまですが、リズミカルな手拍子や足踏み、大勢のグループによるハミングなど、共通する要素も見られます。雨季の雑草抜きといった農作業の際や、お茶(チャイ)の時間に誘い合い、作業を終えようと兄弟姉妹に呼びかけるワークソング。仲間との秘密を共有して連帯を深める歌、他人のものを欲しがる強欲さを戒める教訓歌、家を出ようとする妻とそれを追う夫とのドラマティックなやりとりなど、日々の暮らしの出来事が歌のテーマとなり、明るく躍動感あふれるビートが大地を揺らします。

04 スリランカ(セイロン)

家族への想いや恋心を語り、歌う

セイロンティーの名で知られる紅茶の名産地、スリランカ。ここでは、19世紀に茶業に従事するため南インドから渡ってきたタミル人の人々のあいだで、日々の暮らしや信仰に根ざした歌が息づいています。ヌワラエリヤ、ウバ、キャンディといった霧深い山々の茶園では、労働の厳しさや故郷への思いを切々と歌い上げることもあれば、男女が即興で掛け合い、冗談を交わして疲れを癒やすこともあります。また、雨乞いや収穫への感謝をヒンドゥーの神々に捧げるなど、多彩な旋律が暮らしとともに歌い継がれています。

05 インド

アッサム

ドラムのリズムに合わせて歌えや踊れや

見渡す限りの平原に茶園が広がるアッサム地方では、「ジュムール」という伝統的な歌のジャンルが親しまれています。ジュムールとは、ドラムのリズムに合わせて歌い踊るこの地方独特の芸能のこと。主に女性たちがグループになって、労働のつらさや賃金への不満、友情と恋愛、祖先や土地の神々への祈りをエネルギッシュに歌います。

ニルギリ

即興の歌声が聴こえる緑豊かな「青い山」

現地タミル語で「青い山」を意味するニルギリ。タミル文化が色濃く残るこの地では、茶摘みの作業中にも「テンマング」と呼ばれる伝統的な民謡が歌われてきました。楽器を使わず、語りかけるように心情を吐露し、遠くの仲間に呼びかける即興性の高い労働歌です。歌詞には、日々の暮らしや神への祈り、生活の労苦から恋の悩みまで、切実な想いが織り込まれています。

ダージリン

ヒマラヤ山脈麓に響く哀愁の旋律

ヒマラヤの麓、主に標高600~2,000メートルの急斜面に茶園が広がるダージリンは、ネパール系住民を多数とし、チベット系や先住のレプチャ族などが交錯する文化の十字路。霧深い茶畑で働く女性たちの口からは、ラジオから流れる流行歌や、それぞれの故郷の民謡など、日々の労働の悲哀や恋心を乗せた歌声が響きます。茶園に流れる歌は、厳しい自
然と共に生きる人々の心の支えとして、深い谷間にこだまします。

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