お茶の時間を彩るデザイン。

お茶の文化は器や道具、空間まで形づくってきました。
ここでは、チャノキがなければ生まれなかったデザインの系譜をたどります。

始まりは、ハンドルのないティーボウル

お茶が伝わった当初のヨーロッパ諸国には磁器をつくる技術がなく、中国や日本から茶器を輸入していました。ヨーロッパで磁器を生産できるようになってからは、東洋の茶碗を模したハンドルのないティーボウルがつくられるように。しかし、紅茶が普及していく中で、熱い飲み物をより快適に味わうため、1750年頃にハンドル付きのカップが登場し、現在のティーカップの形へと進化しました。

ソーサーは飲むためにあった⁈

18世紀のヨーロッパでは、ティーボウルやティーカップに入った熱い茶をソーサーに移し、冷ましてから飲むのがマナーとされていました。ブルーとホワイトが美しいイギリス・スポード窯製のティーカップ&ソーサー(1770~1800年頃)は、その時代の紅茶文化を物語る代表的な器です。

シルバーウェアの装飾美

イギリスでは優雅なティータイムを演出するため、装飾性の高い銀製のティーセットやカトラリー、アフタヌーンティー用スタンドなどがさかんにつくられました。貴族たちのシルバーウェアに用いられたのは、高純度の銀合金であるスターリングシルバー(銀含有率92. 5%)。14世紀頃から、スターリングシルバーとしての基準を満たした銀器には、ホールマークという印を記すことが王命により定められており、その純度、製造年、製造都市、工房名を読み解くことができます。一方、銅やピューターなどの地金に銀を薄くメッキしたシルバープレートは、手頃な価格で銀の輝きを楽しめる装飾品として広く普及しました。いずれも、機能性だけではなく、装飾性が重視され、ポットなどの大きな銀器のみならず、スプーンやサーバーなど、小さなものも手の込んだデザインが施されています。

フィリップ・アッシュベリー・アンド・サンズ工房の
シルバープレート製ティーポット(1900年)

砂糖をつまむためにつくられたウィリアム・チョーナー工房のシュガーニップス(1820年)、ハンドルにアゲート(瑪瑙:めのう)をあしらったジョン・ラウンド・アンド・サン工房のティーキャディスプーン(1904年)

余白に美を見出す

茶の湯では、一つひとつの道具のデザイン性よりも、空間全体の構成美が追求されます。岡倉天心が『茶の本』で「茶室は不完全の美を愛するために建てられた」と述べたように、わずか四畳半の茶室にあるのは茶筅や茶杓、茶碗といった最低限の道具と掛け軸、花、菓子といった季節を感じさせるしつらえのみ。華美な装飾を避け、余白を大切にした空間では、ときに木漏れ日や鳥の声といった自然の気配が人の手による意匠と溶け合い、訪れる人に深い安らぎをもたらします。

166年間、カフェに佇む椅子

1859年に生産開始したトーネットNo. 14の愛称は「カフェチェア」。軽くて丈夫、そして美しいこの椅子はドイツ出身の家具デザイナー、ミヒャエル・トーネットがブナ材を水蒸気で曲げる技術を開発したことにより誕生しました。職人の手仕事が必要だった椅子づくりを量産化へと導いた革新的なプロダクトであり、バウハウスやル・コルビュジエにも大きな影響を与えたといいます。誕生から166年以上たった今なお世界中のカフェで愛され、お茶やコーヒーを楽しむ空間の象徴であり続けています。

※バウハウス……1919年にドイツで設立された造形教育機関。建築、美術、工芸、写真、デザインなどの総合的な教育を行い、その理念はモダンデザインの基礎となった
※ル・コルビュジエ ……フランスを拠点に活躍した20世紀を代表する建築家で、モダニズム建築の巨匠

茶葉の風味を保つ機能美

ルピシアの代名詞ともいえる丸缶は、インドの生産者がサンプル用として使用していたお茶の缶を参考に設計。プレス加工によって継ぎ目がない缶に仕上げました。茶葉の風味を保つ機能を追求した先にたどりついたシンプルなデザイン。季節の限定缶やフレーバードティーには遊び心あふれるラベルを
組み合わせ、特別感を演出しています。

参考:『アンティークシルバーのある暮らしII』藤嶋優子(誠文堂新光社)、『英国ティーカップの歴史』Cha Tea 紅茶教室(河出書房新社)、『茶の本』岡倉覚三(岩波文庫)、Design Museum London https://designmuseum.org 協力:ギャラリー虎徹、MALTO