日本列島を北上していく新茶

新茶のシーズンは桜前線のように全国を北上していきます。

新茶と聞くと、〝夏も近づく八十八夜〜〞という『茶摘(ちゃつみ)』の歌を思い浮かべる人も多いかもしれません。これは、立春から数えて88日目にあたる、5月初めの新茶の茶摘みの最盛期を歌ったもの。

しかし実際のところ、新茶の茶摘みのシーズンは地域によって異なり、春の訪れとともに新芽の芽吹く時期が到来します。3月下旬の沖縄や種子島、屋久島を皮切りに、桜前線の後を追いかけるように、新緑の〝新茶前線〞が南から北へと移動していきます。

ご当地の新茶が南から順に届くのも、日本茶ならではの楽しみです。新茶前線は、現在も北上中。全国の旬の日本茶を、旅するように味わってみては。

日本茶の代表的な産地と特徴

沖縄・屋久島・種子島

3月末から収穫が始まる沖縄・屋久島・種子島の新茶は、日本で一番早い新茶として知られています。フレッシュ感が特徴で、個性豊かなお茶がそろいます。

お届け時期の目安:4月上旬〜5月上旬

九州

鹿児島の知覧や佐賀の嬉野、福岡の八女など、個性豊かな産地が広がります。お茶の品種もバラエティーに富んでおり、その多彩さから人気が高まっています。

お届け時期の目安:4月中旬〜6月上旬

静岡

日本を代表するお茶どころ、静岡の中でもバイヤーが厳選した生産者によるお茶をセレクト。独自の品種もあり、新しい味わいも魅力です。

お届け時期の目安:5月〜6月

京都・奈良・滋賀

京都の宇治、奈良の月ヶ瀬、滋賀の朝宮とそれぞれに伝統があるブランド産地です。味わいは異なりますが、上品な風味が共通しています。

お届け時期の目安:5月〜6月

知れば知るほど、おいしく飲める。“日本茶の旬”にまつわる 3 つのこと

新茶とは、その年の最初の新芽を摘みとったお茶のこと

日本茶の産地の多くは、茶摘みの時期が一年のうちに何度も訪れます。地域や品種によって、茶摘みの回数と時期は少しずつ異なりますが、その年の最初に生育した新芽を摘みとって作られたお茶は、一番茶とも呼ばれています。

新芽の季節は短く、一年に一度の新茶のシーズンは、茶畑の最盛期。新茶という言葉には、一年で最初に摘まれる「初物」の意味が込められており、生産者にとって特別な時期でもあります。日本の食材の旬には、「走り」「盛り」「名残」の3つがあるとされます。その季節に初めて収穫されたものが「走り」で、流通量が増えて一番おいしいのが「盛り」、そして終わりかけに惜しみながらいただくのが「名残」です。日本茶もしかりで、新茶は希少価値が高く、縁起物とされています。

新茶とその他の日本茶との違いは「香り」と「旨み」

一番茶は、一般的に一番茶を摘みとった後に出た新芽で作る二番茶よりも香りが高く、品質が良いといわれています。その理由の一つは、栄養分にあります。お茶の木は、冬の間生長を止めて栄養分を蓄えます。春になって芽吹いた新芽は、収穫までにゆっくり生長することで、アミノ酸などに由来する、旨み・甘みのある風味を楽しめます。

一方で、二番茶以降は、日光による紫外線を浴びることで、アミノ酸などの成分がカテキンなどの成分に変化。心地よい渋みのある、さっぱりとした味わいになります。春ならではの若葉の香りと、旨み・甘みの調和を楽しめるのは、新茶のシーズンだけ。それゆえに、新茶は貴重な「初物」として尊ばれてきたのです。

同じ産地でも「品種」や「製法」、「茶園」の違いが味わいの違いに

ひとくちに新茶といっても、さまざまな品種があり、産地や茶園によってもお茶の味わいは異なります。さらに日本茶のバラエティーの豊かさは、製法一つとっても見て取れます。たとえば、一般的な煎茶よりも2~3倍長く蒸す「深蒸し煎茶」は、鹿児島や静岡に多い製法。長く蒸すことで茶葉が細かくなるため、濃い味わいに仕上がります。また生葉を高温の釡で炒る「釡炒り茶」は、九州のごく一部でしか作られていない伝統製法。独特の香ばしい香りが特徴です。どれを選べばいいのか迷うという方は、ぜひ店頭や電話でご相談ください。普段日本茶を飲む習慣のない人も、知れば知るほど、新茶の魅力にハマるはずです。

お茶作りの名人に聞いてみました。新茶を楽しむコツってありますか?

ティーファーム井ノ倉
井ノ倉光博さん

奈良県・月ヶ瀬で、260年続く茶園を営み、有機肥料を主としたお茶作りを追求。消費者と交流し、お茶の魅力を伝えるための店舗を併設。
海外の専門店や高級ホテルにも供給し、世界中のファンを魅了している。

私が作っているお茶の特徴は、大きく二つあります。一つは、茶畑に15日間ほど黒い布をかぶせて新芽を育てる「かぶせ煎茶」です。直射日光を避けることで、茶葉がやわらかくなり、甘みや旨みの成分であるアミノ酸が増えるほか、色鮮やかなお茶に仕上がります。もう一つは、「シングルオリジン」の提供です。単一茶園、単一品種の茶葉を商品にしているため、栽培環境や品種、茶師の個性が際立つお茶になります。

新茶はワインでいうと、ボージョレ・ヌーボーのようなものです。初物を祝い、新茶ならではの清涼感のある香りと味わいを楽しめます。今年の生育は順調で、昨年よりもおいしいお茶を来月号でお届けできる予定です。

日本新茶の旨みを味わうなら低温が正解です

それでは、浅蒸しで作る新茶のポテンシャルを最大限に引き出す、井ノ倉流のおいしいいれ方をご紹介しましょう。
ポイントは四つ。「湯温(50℃)」と「茶葉の量(一人分5ɡ)」、「湯量(一人分60㎖)」、「浸出時間(90秒)」です。湯温はとても重要で、渋みに比例します。新茶には旨みが多いので、低温でいれることで爽やかな香りと旨みが出てきます。「低温がよいなら、水出しのほうがよいのでは」と考える人もいるかもしれませんが、新茶はお湯でいれると、香りが立ちやすいです。

若々しい初摘みの味を好む人もいれば、秋以降の熟成した旨みを好む人もいます。同じ茶葉で味の違いを比べるのもおすすめです。新茶の味を堪能したら、「摘む」という楽しみ方はいかがでしょう。2024年度は、茶摘みイベントを開催予定です。茶畑の旬を、体験しにいらしてください。

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