いよいよ待ち焦がれていたファーストフラッシュに会いに

写真:マネージャーのチョーダリー氏に茶葉の状態を教わるルピシアスタッフ

ダージリン産を名乗ることができるのは、インド政府紅茶局が認定した87茶園のみ。世界最大の紅茶生産国インドの中でも、ダージリン産は1%程度しかない貴重品なのです。

空港から2時間ほどのドライブで、いよいよダージリンの茶園が見えてきました。それぞれに個性溢れる茶園をご紹介しましょう。


茶園01 グームティー

伝統的なマスカテルティーを生産する、数少ない茶園の一つ

1899年に創設されたグームティー茶園は、緑豊かな原生林が広がるダージリンの南の入り口クルセオン・サウスに位置し、標高およそ850〜1,800mの範囲に広がっています。茶園名の由来である〝GHUMI〞はネパール語で〝道の曲がり角〞を意味し、園の敷地内には名前の由来の通りトイ・トレインが曲がる場所や、雄大なマハナディ川の源流と、いくつもの滝が流れ、さまざまな野生動植物が生息しています。

「ファーストフラッシュのシーズン中は、毎朝霧が立ち込める山道を歩いて仕事に向かいます。自然環境の美しさは息をのむほどです」と語るマネージャーのジャワハール・チョーダリー氏。経済学の教師から一転、ダージリンに魅せられて2001年からお茶の世界に飛び込んだ異色のキャリアの持ち主です。

「茶葉の品質は自然の贈りものです。もちろんそれ以上に、人間の経験則、細部へのこだわり、感性は、依然として最も重要です。グームティーのベテランたちは、触感で正確に葉の水分含有量を見積もることができますし、茶葉の匂いを嗅ぐことでお茶の味わいが最大限に引き出されたかどうかを確認し、乾燥の工程へと進めるのに最適なタイミングを判断しています」

敷地内の庭園には春を告げる美しい草花も

2階の窓際に見えるテイスティング風景

絵に描いたように美しい一芯二葉

世界に誇る農産物としてのダージリン

「たとえば、世界中で数多くの高級スパークリングワインが生産されていますが、シャンパンと呼ばれる資格があるのは、フランスのシャンパーニュ地方で作られた農産物だけです。同様に、多くのお茶がありますが、ダージリンほどその味と品質のプロフィールに一致するものはありません」チョーダリー氏は、誇らしげに語ります。

ダージリンの茶園の中でも、特に品質の高い生産者として常にトップ5 内にランクされているグームティー茶園。100 万本の茶樹が植えられ、最も標高が高い1,676mに位置するナルマダとマジュアという区画エリアで収穫されたお茶は特に品質に優れ、世界中のお茶好きを魅了しています。

「2024 年のファーストフラッシュは、3月に入っても気温が低く、また雨不足による乾燥の影響でシーズンのスタートが遅れています。そのような中でも、私たちは、グームティーが今シーズンもまた、最高品質の伝統的なファーストフラッシュを生産することを確信しています」

昨年の10月から今年の3月中旬の5ヶ月間、ダージリン周辺はほとんど雨が降らず、新芽の成長が遅れているといいます。グームティーでは日頃からの行き届いた管理と備えのおかげで、少ない生産量の中でも素晴らしい品質のファーストフラッシュに出会うことができました。

最後に、日本のダージリンファンにメッセージをいただきました。
「今年も繊細なブーケの香り、フレッシュで滑らかなファーストフラッシュの味わいをお楽しみください。そしてぜひ、ダージリンへお越しください。お茶の神秘を解き明かし、茶園の自然の美しさを発見することでしょう」

春摘みならではの味・香り、水色に出会う

敷地内には絶景ポイントも


茶園02 キャッスルトン

世界中の愛好家や王族から愛される名園

世界最古のコルカタオークションにおいて、常に記録的な価格を達成し、ダージリンを代表する名園として日本でも人気が高いキャッスルトン茶園。紅茶の栽培において標高は重要な要素とされ、一般的に標高が高いほど独特の味や香りが生まれるといわれる中、主に中国種の茶樹が標高 915mから 1,830 mのエリアに生育しています。

「75% 以上が中国種で構成されており、これこそが高く評価され、優美で繊細な独特の特徴を与えています」と語るマネージャーのラージ・シンハ氏。標高1,500m以上に位置するクローナル種のエリアでは、特に優れた品質の茶葉のみを用いて『ムーンライト』と呼ばれるスペシャルロットの紅茶が生産されています。

本格的な春を待つ、芽吹き始めた茶畑

昔ながらの天秤ばかりで茶葉を計量

お茶は、自然と人の手が育む工芸品

「ダージリン紅茶は工芸品です。高品質のお茶を生産するには、茶葉の摘採、萎凋のプロセス、製造のタイミングなど、あらゆる工程において、シーズンごとに最適な数値を設定し、その通りに製造する必要があります」

シンハ氏によると、今年は3月4日から生産を開始したものの雨量不足で収穫量が少なく、例年に比べ、生産時期が2週間遅れているそうです。


「茶樹は長い冬眠期間を経て、春にようやく非常に繊細で柔らかな新芽を出します。軽やかでみずみずしさが感じられる今年のファーストフラッシュをぜひ楽しみにお待ちください」

困難な環境下でも、当然のごとく最高級と呼ばれるお茶を作り続けているキャッスルトン。世界に名を馳せる名園の貫禄を改めて感じました。

茶園マネージャーのラージ・シンハ氏

看板には“TOP OF THE WORLD”の文字

香りで茶葉の状態を確かめる


茶園03 シーヨク

自然との調和から育まれる茶葉

ネパールの国境に近いミリクバレーの北斜面、標高975〜1,526mに位置するシーヨク茶園。道中は中々の悪路で、これほど遠くて車一台通るのがやっとの場所から日本にお茶が届くことを思うと、改めて奇跡のように感じます。

茶園では、J・P・グルン氏とマネージャーが出迎えてくれました。グルン氏はキャリア50年のプランターで、お茶に関する自身の著作が3冊あり、コルカタのお茶業界では尊敬を集める人物。シーヨクのほか、セリンボンやシンジェルを所有し、アッサムやドアーズにも茶園があるグループの常務取締役を務めています。このグループの茶園はすべてオーガニックで、インドの茶園で初めてバイオダイナミック農法(ルドルフ・シュタイナーによって提唱された有機農法・自然農法)を取り入れた先進的な企業としても知られています。

「私たちは北向きの庭園で、山のそよ風と早い日照時間の恩恵を享受しています。常に持続可能な実践を重視し、自
然との調和を保つために環境に優しい方法を採用してきました」と語るマネージャーのラマ氏。今年のファーストフラッシュは、他の茶園と同様、雨量不足のため本格的な生産は4月1週目以降になりました。

多様性を重んじるシーヨクの理念が園内のあちこちに

ゲストのもてなしにも利用されるバンガロー

キャリア50年のプランター、取締役のJ・P・グルン氏

植物・動物・人が共存する茶園

テイスティングの後、グルン氏の案内で茶園を散策。特に印象的だったのは、シーヨク茶園全体の面積406ヘクタールのうち、茶樹が植えられているのは157ヘクタールのみで、残りの土地には様々な植物が植えられ、自然との調和を体感したこと。園内はごみ一つ落ちておらず、非常にきれいに保たれており、時折ヒョウが現れることもあるとか。オーガニックという枠にとどまらず、植物や動物と人間がうまく共存できる環境を整えながら、ダージリンに息づく歴史や文化としてのお茶に情熱を注いでこられたグルン氏。お茶づくりのポリシーを肌で感じることができた貴重な訪問となりました。

多種多様な植物や生物が育まれる、自然に包まれた茶園

1869年設立の製茶工場


茶園04 タルボ

ダージリンで最も広大な茶園

シーヨク茶園と同じミリクバレーに位置するタルボ茶園。平均標高が1,500mで、起伏の激しいエリアにあります。

「お茶を生産している国は世界で40ヶ国以上ありますが、ダージリン ファーストフラッシュほど魅力のあるお茶はほかにないと自負しています。フローラルでフルーティーな香り、繊細かつ生き生きとした味わいのファーストフラッシュとともに、日本の皆さんと新たな一年のスタートを迎えられることを誇りに思っています」

37年にわたり、この地でお茶の生産に携わるベテランのプラナブ・デ・ムキア氏は、こんな言葉で出迎えてれました。

新芽を見極める茶摘みのエキスパートたち

春摘みならではの様々な淡い水色が美しい

茶葉の摘採こそがクオリティーの原点

ムキア氏によると、例年に比べ、生産開始は遅れているものの、この日は夜中の2時から4時半ごろまで作業し、340 kgの生葉から70kgを製造。出来たばかりのお茶をテイスティングさせていただきました。低温と乾燥の影響でまだ生産量が少なく、収量が見込めるのは4月1週目以降になりました。

「生産工程で最も重要なのは、茶葉の摘採だと考えています。当園では、確かな技術を持ったエキスパートが摘採を行い、量よりも品質を重視し、そのシーズン、その日に摘み取るべき茶葉を厳選することを徹底しています」

茶園の人たちは誰もが自然環境と向き合うことを一日たりとも欠かしません。茶園からの帰り道、急勾配の茶園で真剣な眼差しで茶葉を摘む女性たちの姿が印象的でした。

茶摘みの高い技術が、茶園の品質を支えている

気さくな笑顔で撮影に応じてくれたスタッフ

ダージリンの旅を終えて

ダージリンの茶園はどこも急斜面にびっしりと茶樹が植えられています。立っているのも困難なほどの斜面で、女性たちが黙々と、かつ的確に茶葉を摘む姿は一見単純作業のように見えますが、しかるべき状態の新芽のみを選別することが必要で、長時間の集中力と根気のいる作業です。

近年は、生活の効率化を求める若年層が増え、どの茶園でも、労働者の確保が大きな課題の一つとなっています。また、ここでは作り手の誰もが自然の恩恵として茶葉を捉え、どんな環境下でもあらがうことなく、人々の知恵と愛情を尽くして茶樹に寄り添い育む姿がありました。

紅茶をいれるとき、味わう際にぜひダージリンの風景と人々に思いを馳せてみてください。そして、この春一番のファーストフラッシュを心ゆくまでお楽しみください。

現地のスタッフ、ルピシアスタッフと記念撮影

ダージリン ファースト フラッシュ 2024

一年で今だけ、ダージリンの新茶。
フレッシュ感あふれるこの時期だけの味わい。黄金色の水色と華やかな香り。ホットはもちろん、水出しアイスティーもおすすめです。

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