浮世絵お茶語り:日本生まれの製法で普及した煎茶

監修および画像提供/ 入間市博物館

私たちにとても身近な「煎茶」は、承応3年(1654)、明代の中国から来日した隠元(いんげん)禅師が日本に伝えたのが始まりともいわれ、日本茶の歴史の中では比較的新しいお茶です。

隠元禅師が伝えた煎茶は、摘み取った茶葉を釜で炒ることにより茶葉の発酵を止め、揉みながら乾燥させる「釜炒り製煎茶」でした。今日評価されている製法ですが、当時はなかなか定着しなかったようです。

元文3年(1738)、宇治の永谷宗円(ながたに・そうえん)によって確立されたとされるのが、「蒸し製煎茶」です。これは抹茶の製法(茶葉を摘んだ後、蒸して茶葉の発酵を止める)に、釜炒り製の「揉む」という技術を組み合わせたもので、現在の日本の緑茶製法の礎でもあります。従来のお茶に比べて味も香りも良い蒸し製煎茶は、特に「文人」と呼ばれる知識人たちや、お茶を高級な嗜好品として楽しむ人々の間で支持を集め、そうした追い風に乗って、蒸し製煎茶は次第に各地に広まっていきました。

図1「富嶽三十六景駿州片倉茶園ノ不二」

葛飾北斎 天保(1830~1844年)期

【図1】は、駿河片倉(現在の静岡県富士市と推測)の茶園風景。駿河は良質な煎茶の産地で、将軍家に「御用茶」として煎茶を上納していたことが知られています。この浮世絵からは、茶園の茶を手で摘んでいる様子や籠に入れた茶葉を運んでいる様子がわかります。

図2「東海道五十三対 府中」

歌川広重 初代 弘化(1844~1848年)期

【図2】は、駿河府中での茶摘みの光景。「名産阿部茶は府中の北足久保より出る関東茶園の第一にして多く世に用いる上方宇治信楽にるいす」と記されています。関西方面では、宇治、信楽が名産地として評判だった
のでしょう。

図3「茶を製す図」

歌川国輝 二代 慶応~明治7年(1865~1874年)頃

絵の上部にある文章を現代語に訳すと、「摘み取った茶葉を蒸篭に入れて蒸し、板の上で揉み、敷き紙の上に干し、ホイロ※にかけ、仕上げる。また、生の茶葉をすぐに熱湯に入れてゆでる方法もある。しかし、蒸す方法が最も良い製法である。」

※手揉みでの茶づくりに欠かせない道具。
 もともとは炭火で茶を乾燥させるために使われた。


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