音楽とお茶

音楽がある時間。音楽がある空間。
音楽があると、その場の空気が変わります。それはまるで魔法のように、その場の空気をコントロールしてしまいます。そもそも音は空気の振動によって耳に届くもの。物理的にも理にかなってはいるのですが、それだけではありません。音楽は体の中にまで伝わり、心の奥まで震わせてくれます。
それはお茶の世界にも通ずるかもしれません。一杯のお茶をいただくとき、お茶はその味や香りだけではなく、そこに流れる時間や空間、さまざまな想いまでを味わわせてくれます。

ルピシア「おたより。」2023年2月号の特集は「音楽とお茶」。
お茶を楽しむ時間にぴったりの音楽ってなんだろう? もちろんそれは人それぞれですが、ここはあえて、様々なジャンルの音楽に精通し、フォトグラファー・デザイナー・DJとして活躍する常盤響(ときわひびき)さんに、ルピシアで人気の6種類のお茶にぴったりの音楽をセレクトしてもらいました。音楽とお茶のある時間を、ぜひお楽しみください。

常盤 響 (ときわひびき)
フォトグラファー・デザイナー・DJ
1966年東京生まれ。
80年代半ばからバンド活動の傍ら雑誌を中心にライター、イラストレーターとして活動を開始。
90年代に入りCDジャケットを中心にデザインを始める。
80年代後半、書籍の装丁用の写真を撮ったことがきっかけでフォトグラファーとしての活動を始める。
2011年に4万枚のレコードとともに福岡に移住。2015年からは福岡県糸島市に住居、アトリエを移す。現在まで写真集、展覧会共に多数。DJとしての仕事も多く、これまでにYMO、テイ・トウワ、コーネリアスなどのリミックスを手がける。小西康陽氏とともに渋谷オルガンバーで毎月第二日曜日にレギュラーイベント開催のほか、全国各地のイベントでDJも務める。また、アナログレコードのみで選曲するラジオ番組、福岡LOVE FM「常盤響のニューレコード」(毎週金曜日22〜23時30分)も放送中。

ダージリンの気品とストリングスの調べ

「音楽とお茶」と聞いて真っ先に思い出す曲が「二人でお茶を」という曲。1924年のミュージカル「ノー・ノー・ナネット」の中で歌われてヒットしました。1950年には「Tea For Two」のタイトルで映画化されて、主演のドリス・デイとゴードン・マックレーがデュエットしてから、ジャズのスタンダードナンバーとして現在まで数多くのカバー・バージョンが生まれました。

中でも大好きなのがジャズ・ヴァイオリニストの第一人者ステファン・グラッペリがクラシック・ヴァイオリニストの第一人者ユーディ・メニューインと共演したもので、1978年に発売されたアルバム「Tea For Two」に収録されています。当時70歳のグラッペリと62歳のメニューインが仲良くお茶を飲んでいるアルバムジャケットも可愛らしくて最高ですが、スタイルの違うグラッペリとメニューインのヴァイオリンが可愛らしくデュエットする様子は聞いているだけでとても微笑ましい気分になります。二人の優しくスウィートな演奏はなんといってもダージリンの中でも甘さと円熟味に溢れた秋摘みの紅茶、オータムナルの表現とぴったり合っていると思うのです。

Tea For Two
“Menuhin & Grappelli: Friends In Music”
ユーディ・メニューイン / Yehudi Menuhin

ダージリン・ザ オータムナル
穏やかな甘みが魅力的な、ダージリンの秋摘み紅茶だけをブレンドしました。焙煎の香りが引き立つ、しっかりとした味わいです。
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華やかなフレーバーでパリを巡る

エキゾチック・ミュージックの代表的名曲「クワイエット・ヴィレッジ」の作者であり、1950年代から1960年代を中心に活躍したレス・バクスター。南米やアフリカ、アジアや南洋の島々などから、果ては宇宙の星々に至るまで、彼が思いを馳せ制作したイマジネーションを刺激する数々のアルバムは、どの作品もとても素晴らしく魅力的。そんな40タイトル以上あるレス・バクスターのアルバムの中から、フレーバードティーのメルシー ミルフォワの華やかでスウィートな果実の香りとカラフルな花びらをイメージするのは、1957年にリリースされた「’Round The World With Les Baxter」。音楽で世界の国々を巡るというコンセプトで作られたこのアルバムはどの曲もうっとりするほど素敵なのですが、中でもフランス・パリをイメージした「The Clown On The Eiffel Tower」がメルシー ミルフォワのイメージに合うと思います。庭先に置いたテーブルにポータブルのレコードプレーヤー。ティーカップから立ち昇る、甘く華やかな香りを味わいながらレコードを聞いていると、どこか遠くの国にトリップしているような錯覚すら覚えるほど。

The Clown On The Eiffel Tower
“’Round The World With Les Baxter”
レス・バクスター / Les Baxter

メルシー ミルフォワ
白桃や苺の甘い果実の香りが華やかに広がります。色とりどりの花びらが美しい、花束をイメージした紅茶。
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甘い香りの緑茶と日本語のみゅーじっく

僕の家には和室がない。でも、日本茶はとても好きなのです。よくお気に入りのソファに座りレコードを聞いたり読書をしながら、緑茶を飲んでいます。アメリカの米軍ハウスに備え付けられていた家具を模したソファとローテーブルに不思議とマッチする日本茶の茶器。そんなイメージで真っ先に思いついたのが細野晴臣さんの最初のソロアルバム「HOSONO HOUSE」。

はっぴいえんど解散の翌年、1973年に埼玉県狭山市の米軍ハウスにあった細野さんの自宅でレコーディングされたこのアルバムは、ノスタルジックなアメリカの憧憬とともに、不思議と日本的な感覚が同居していました。それは、このアルバムの1曲目を飾る「ろっかばいまいべいびい」にもよく現れているような気がします。

まるで、昔のスタンダードナンバーを聞いたような感覚のメロディと、はっぴいえんどの松本隆さんに比べて、饒舌ではない朴訥とした歌詞がじんわりと心に染みてくるのです。どこかゆたかみどりの、ほのかな甘みに通じるところも。

それにしても、この曲をレコーディングした時、細野さんはまだ25歳。天才は最初から天才なんだなぁとしみじみ思いながら、お茶をもう一杯。

ろっかばいまいべいびい
“HOSONO HOUSE”
細野晴臣 / Haruomi Hosono

知覧 ゆたかみどり
サツマイモのようなほっこりとした甘い香りと、コクがありながらも渋みが少なく甘みのある、まろやかな味わいの深蒸し煎茶です。
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温かいミルクティーと英国の情景

トム・スプリングフィールドを知る人は多分そんなに多くはないでしょう。彼の妹はイギリスを代表するシンガー、ダスティ・スプリングフィールド。トムは妹と一緒にフォークトリオ、ザ・スプリングフィールズを結成し1961年にデビュー。1962年にはイギリスだけではなく、アメリカでもヒットしました。1963年にダスティが脱退して解散。ダスティはソロデビューして数多くのヒット曲をリリースしました。一方トムは裏方にまわりシーカーズをヒットさせたり、ダスティの曲をアレンジしたり。あまり目立つ性格ではなかったのか、1970年にダスティとのデュエットをリリースした後は、隠遁生活に入ってしまいました。そんなトムは自身のアルバムを2枚だけリリースしています。特に最初のアルバム「Sun Songs」はナイーブな優しさに溢れています。まるでミルクティーを飲んだ時のようにじんわりと温かさが自分を満たしてくれるのです。
海で撮影されたジャケットの写真の色がとても素敵。カラッと晴れていない、もやのかかったような海辺の感じがとてもイギリス的で、部屋に飾りたくなるようなジャケットなのです。

Here, there and everywhere
“Sun Songs”
トム・スプリングフィールド / Tom Springfield

ユニオンジャック
イギリスで親しまれる紅茶を再現しました。上品でオーソドックスな風味は毎日の紅茶におすすめ。ミルクを入れて英国式にどうぞ。
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白桃のみずみずしさと
アジアのシティーポップ

アジア各国に撮影のロケで訪れていた頃、中国茶の魅力を知っていろいろなお茶を飲んでみました。中でも台湾烏龍茶の爽やかさと奥深さは衝撃でした。中国茶と同じく、アジアのレコードや音楽も大変奥深く、あちこち訪れてはレコードを探し歩く旅が何より楽しかったのです。近年は先輩のミュージシャン、岸野雄一さんとアジアにDJをしに行くようになったのですが、台北のイベントで一緒にDJをしたのが林以樂 (リン・イーラー)さん。台湾のインディーポップバンド雀斑や自身のソロプロジェクトSKIP SKIP BEN BEN などでの活動を経て、最近は本名の林以樂として、台湾のシティーポップブームを牽引する存在になっています。

林以樂さんが2020年に岸野さんのレーベル OUT ONE DISC からリリースしたのは大瀧詠一さんの名曲「夢で逢えたら」の中国語カバー。シリア・ポールのバージョンを下敷きにしたゲイリー芦屋さん入魂のアレンジが素晴らしい。みずみずしい白桃の香りの白桃烏龍 極品を飲んでいたら、久しぶりに台湾を訪れて、林以樂さん、岸野雄一さんと一緒にレコード屋さんを巡り、古い台湾のレコードを探したくなりました。

相約夢境(夢で逢えたら)
“YILE LIN”
リン・イーラー / 林以樂

白桃烏龍 極品
上質な台湾烏龍茶に、みずみずしい白桃の香りをつけた、不動の人気アイテム。やわらかな香りが、烏龍茶の爽やかな味わいを引き立てます。
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優雅に漂うハーブと甘い夢

まだ自由に自宅で再生できるメディアが本とレコードしかなかった時代、さまざまなイマジネーションを刺激するレコードが作られていました。古くはムード・ミュージック、近年ではスペース・エイジ・バチェラー・パッド・ミュージックなどと呼ばれています。音楽を聴くという行為が、ちょっと特別で贅沢だった時代に、まさにタイトル通りの「Sounds In The Night 」といえるアルバムを作り上げたのは1950年代を代表するコンポーザーであり、アレンジャーでもあるラス・ガルシア。デューク・エリントンからガーシュウィン、コール・ポーターなどの名曲に自身の曲も織り交ぜ素晴らしいアレンジを施した、まさに夜に一人で聴きたいアルバム。中でもデューク・エリントンが1932年に作曲した「Sophisticated Lady」はこのアルバムの冒頭を飾る一曲。天上から降ってくるようなコーラスに身も心もとろけてしまいそうになります。ベッドにもぐりこむ前のひと時、カモミールにフルーツとスパイスの香りが優雅に漂うハーブティー、その名もスウィートドリームス!をいただきながら、至福の時間を楽しみましょう。

Sophisticated Lady
“Sounds In The Night”
ラス・ガルシア / Russ Garcia

スウィートドリームス!
穏やかな香りのカモミールに、ジンジャーとドライアップルをブレンド。ノンカフェインなので、おやすみ前のリラックスタイムにぴったりです。
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本特集でセレクトされた曲は、C D・レコードショップ、各種サブスクリプションサービス、インターネット動画などで購入または視聴が可能なものです。


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