温故知新 ~未来に繋がる ものづくり~

こちらの投稿は、過去に世界のお茶専門店LUPICIAでご紹介した記事です。
商品・内容については掲載当時のものになります。

今年の「桜のお茶」シリーズは工芸品や和文様など、長く受け継がれる日本の伝統文化がテーマです。
愛され続けるものづくりとは?

お話を伺った方

株式会社 青郊
北野啓太 社長
≫ 青郊窯の公式サイトはこちら

ものづくりの現場で大切なこと

 時代の流れとともに変化を遂げながら、受け継がれる日本の伝統文化。今年の桜のお茶シリーズは、そんな「長く愛され続けるもの」をテーマに、工芸品や和文様、昔懐かしい手遊びをデザインのモチーフにしています。

 長く愛され続けるものづくりに大切なこととは、一体何でしょうか。今回お話を伺ったのは、毎年、桜の季節にルピシアのオリジナル豆皿を制作いただいている、九谷焼窯元「青郊(せいこう)」の4代目、北野啓太さんです。今年の桜のお茶シリーズを担当したデザイナーが取材させていただきました。

新たな風となった工芸品の”印刷”技術

―― 手描きが主流となっている工芸品の業界において、青郊窯では、九谷焼に自社開発の印刷技術を取り入れたと聞き、驚きました。

 九谷焼は、九谷五彩と呼ばれる和絵具で描かれます。私の祖父にあたる先々代が、和絵具を開発、九谷焼の工房として開業したのが始まりでした。先代が家業を継ぐことになった当時、市場に出ている九谷焼は、出来以上にブランド価値を重視した品物が多かったようです。自身が作る九谷焼をブランドに恥じないクオリティーで、手の届きやすい価格にしたいと思った先代は、九谷焼ならではの質感や美しさ、手描きの風合いはそのままに、絵付けを印刷化する技術を開発しました。

―― 当時の周囲の反応はどのようなものでしたか?

 正直なところ、生産性を高めた印刷技術を取り入れることが、一部の職人からは良く思われないこともありましたね。しかし、我々も印刷を手描きとごまかすつもりはなく、あくまで産業的な生産手法の一つとして確立したいという思いを持っています。この技術を評価してくださる方もいますし、私にとっては高品質な九谷焼を手の届きやすい正当な価格で販売することが重要だと、常に思っています。そのために印刷化は必要な手段でした。

自分にはない感性を磨き続ける

―― デザインは北野社長ご自身がされているのだとか。

 3年ほど前まで、ほとんど私がデザインを手掛けてきましたが、新しくデザイナーに入ってもらい、現在は2名体制になりました。日々作り続けていると、自分のデザインだけではパターン化してきて面白みに欠けてしまうし、感性が滞ることの方が怖い。

―― 私も10年以上ルピシアでデザインをしていますが、同じ感覚があります。

 どのように克服しているのですか?

―― 同僚のデザイナーから刺激を受けたり、日本をはじめ世界中の文様や工芸品、風景、色、音、あらゆるものから、デザインのインスピレーションを得ています。コラボレーションさせていただいている九谷焼も、その一つです。

 やはり新たな感性を常に取り入れることが必要ですよね。実際に、新たに迎えたデザイナーから上がってくるデザインは、これまで青郊になかった雰囲気を感じられる目新しさもあり、一緒に仕事ができて良かったです。

「初めて」への挑戦が伝統を守る

―― 九谷焼を作る上で、大事にしていることは何ですか?

 新しいことに挑戦する一方で、九谷焼の品質を守ることは私にとって絶対条件です。九谷焼のアイデンティティは、ぷっくりと盛り上がった絵具と、色の放つ透明感。それに加えて青郊では、色のきれいさを徹底的に追求しています。長年、和絵具の開発研究を重ねてきて、発色の美しさには自信があります。九谷焼は色数が少ないからこそ、器とデザインのテイストに合わせた色遣いを大事にしたいのです。これからもその追求にゴールはありません。

手描きの風合いが繊細に表現された、青郊窯の九谷焼。美しい発色は研究を重ねられた和絵具ならでは。

―― 新しいことへの挑戦と、九谷焼の伝統を守る……そのバランスは難しいのでは?

 九谷焼の360年の歴史、そしてそれを支えてきた業界のおかげで、私たちが九谷焼の名前を使わせてもらっているという感謝があるので、やはり商品の品質は徹底して、良いものしか市場に送り出すことはできません。
 その上で新しいことを取り入れて、より多くの方に手に取っていただけるのであれば、それが結果的に九谷焼の文化や伝統を守ることにもなります。

―― 新しいことへの挑戦が、伝統を守る……。感慨深い言葉です。”故(ふる)きを温(たず)ね新しきを知る”=「温故知新」の精神が、愛されるものづくりの基盤となっているのですね。

九谷焼にかける熱い思いを伺うことができ、デザイナーにとっても励みになる取材でした。

4年目の協同 オリジナル桜豆皿

 ルピシアさんとの協同も4年目になりますが、毎年発見があって楽しいです。上がってくるデザインを見て、こんな表現アリなんだ!と、逆に私たちの方が勉強になっているぐらいです。色遣いや、表現の細かさが、普段私たちが作っている九谷焼とは違った感性で描かれているのを感じます。
 今年の豆皿もそうですが、デザインがかなり細部まで作り込まれているので、印刷の技術がこのクオリティーを表現できるか不安でしたが、実際に焼いてみるときれいに仕上げることができ、自分でも驚きました(笑)。ルピシアさんとのコラボレーションのおかげで、私たちの技術も少しずつ進化しています。


WEB限定記事公開中! オリジナル桜豆皿 制作秘話

新作デザインの豆皿を共同開発する中で、4年目の今だからこそ話せる(!)デザイナー同士の制作秘話を覗いてみます。

春を彩る豆皿

ご紹介した九谷焼の窯元「青郊」とルピシアのコラボレーションから生まれた豆皿が今年も登場!