長崎・波佐見 水晶彫の窯元を訪ねて

水晶彫のティーポットとカップ&ソーサー(こちらからお求めいただけます)

薄く繊細な白磁に水晶のような輝きが唯一無二の美しさをたたえる水晶彫(すいしょうぼり)の器。 長崎で400年以上の歴史を持つ波佐見焼の窯元「丹心窯(たんしんがま)」へ、その手仕事が生まれる場所を訪ねました。

400年の歴史誇る焼きものの里

長崎県の中央北部、緑豊かな山間に広がる焼き物の町・波佐見(はさみ)。波佐見焼といえば、白磁に呉須(ごす)(藍色)で絵付けされた器を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、「特徴がないのが特徴」といわれるほど、特定の決まった様式やデザインに縛られず、時代や暮らしに合わせて自由な器づくりをしてきたところでもあります。その中で、水晶彫という独自の技法を磨き、器づくりをしているのが「丹心窯」です。

〈お話を伺った方〉

丹心窯 2代目
長﨑 忠義(ながさき ただよし)さん

丹心窯WEBサイト
https://www.tanshingama.com/

土へのこだわり

丹心窯を訪ねたのは、季節が秋へと移り変わろうとしている9月。作業場に足を踏み入れると、季節が夏に舞い戻ったかのような暑さで、お話をうかがっているだけでも汗が伝うほど。エアコンや扇風機の風で埃が舞って生地に付着しないように、そして生地が乾燥しないようにと、エアコンや扇風機は使用していないそう。作業場には電気窯があり、窯から出した焼成した器の熱も加わって、さらに室温を上げます。そんな暑さの中で、職人さんたちはそれぞれの作業に深く集中し、土に向き合って手を動かしています。

丹心窯で使用している土は、天草産の撰上陶土(えりじょうとうど)という不純物の少ない土。薄く作ってもひずみの出ない、粒子の細かい土を使用しています。水晶彫の器を見た時に感じた、繊細な薄さと、水晶の輝きと共鳴するような白磁の白さは、この土選びへのこだわりからきているのだと感じました。

白磁の美しさが水晶彫と合わさった時にさらに際立つ。

水晶彫ができるまで

1 生地の成形

丹心窯では3種類の成形方法で生地作りを行っています。今回ルピシアで作っていただいたカップ&ソーサーとティーポットでも、カップは機械ろくろ、ティーポットは排泥鋳込(はいでいいこみ)、ソーサーは圧力鋳込といったように、形状によって成形方法を変えています。

原料を石膏(せっこう)型に流し込み、余分な液を捨てて成形する排泥鋳込。

2 手で穴を彫る

生地に穴をあけます。下書きはなく、職人さんがフリーハンドで一つ一つ丁寧に掘っていきます。わずか数ミリずれるとデザインが大きく変わってしまう繊細な作業をテンポよく掘り進めていく様子は、その作業自体が美しく、ずっと見ていたいと思うほど。

一つ一つ手作業で掘っていく様子。集中力と正確さが求められる重要な工程。

穴の位置が正しいかガイドで確認することも。

道具は絵筆の穂先がないものを使う。デザインによって様々な形を使い分ける。

3 削り

器の底や高台(こうだい)、縁を薄く削ります。

カナと呼ばれる道具で削る。

4 水拭き・仕上げ

余分な出っ張りや削り跡をなめらかにします。

刷毛を使って丁寧に仕上げていく。

5 素焼き

通常よりも高めの930度で素焼きを行います。

電気窯で焼く。

6 釉(ゆう)がけ

表面にガラス質の光沢が出るよう釉薬(ゆうやく)をかけます。この時点では、まだ穴が空いている状態。

7 焼成(1回目)

1300度の高温で焼きます。これにより、焼きものは硬く焼きしまり、表面がガラスのようになります。この時点でもまだ穴は空いています。

左が素焼きしたもの、右が1回目の本焼きを終えたもの。1割ほど大きさが収縮する。

8 手で粘土を詰める

空いている穴に特別な配合の粘土を詰めます。外側にマスキングテープを貼って、内側から指を使ってすき間なく、なめらかに詰めます。この時点ではまだ透明ではありません。

水晶彫のかなめとなる複数の材料をブレンドして作っている粘土。

粘土を詰めた様子。

9 焼成(2回目)

2度目の焼成。これによって水晶彫の透明な輝きが生まれます。

2回の本焼きを経て、水晶彫の輝きが生まれる。

唯一無二の美しさ

水晶彫は、中国から伝わった伝統的な透かし技法「蛍焼(ほたるやき)」をベースに、「丹心窯」の初代・長﨑譲さんが独自に発展させた製法です。無色透明の美しい輝きを放つ様子から水晶彫と名付けられました。

「透明度を出すための粘土の調合は先代が試行錯誤して辿りついたもので、そのレシピは一子相伝。私が初代に口頭でレシピを聞いただけで、どこにも書き残したりしていません」と長崎さん。そして、万が一世に出るようなことがあっても「他ではこんな面倒なことはできない」と続けます。その自信と誇りが水晶彫をより輝かせ、唯一無二の美しさにしているように感じました。

お茶を入れることで水晶彫の表情の変化も楽しめる。

作業場を後にして、水晶彫りのカップでお茶を一杯。水晶彫の丸い形がお茶によって形を変える様はまるで月の満ち欠けのよう。窓から差し込む光に向けて掲げると、透き通った白磁にたゆたうお茶がまるで静かな夜の海と浮かぶ月のようで、幻想的な美しさに魅了されながら丹心窯を後にしました。


水晶彫の器でティータイムを

水晶彫を施した白磁の美しい茶器で楽しむお茶の時間。注ぐお茶の種類によって、表情を変える様子もお楽しみください。