当時の雑誌や絵葉書が語る世代を超えたムーブメント

「The Tea Cup’s Fortune Telling」のタイトルがついた油絵を原画にしたポストカード。ロマ民族の占い師の紅茶占いのシーン。1907年の消印付き。

イギリスやアメリカの新聞や雑誌に紅茶占いの記事が頻繁に登場するように

誰もが日常の暮らしの中で気軽に楽しめる紅茶占いは、広く大衆に受け入れられました。1870年頃からは、イギリスやアメリカの新聞や雑誌に紅茶占いの記事が頻繁に登場するようになります。特に1890年代の記事が多いことから、一番流行したのはこの時代ではないかと推測されます。

1896年のファッション誌「HARPER’S BAZAR」の表紙。茶会服ティードレス姿の貴婦人がカップの中の茶殻を見て驚きの表情を浮かべています。

1907年の雑誌の挿絵。老夫婦が真剣な表情でカップの内側をのぞき込んでいます。夫人が手にしているのはモチーフの解説書だと思われます。

時は世紀末。20世紀という新しい時代に向けて、世の中も大きく様変わりします。特に影響を受けたのは女性たちでした。それまでは女性の幸せは結婚、子どもを産むことにあるという考えが一般的でしたが、女性が仕事を持つことも推奨されるようになっていきます。結婚に関しても、これまでの見合い結婚から恋愛結婚に移行し、女性の行動範囲の拡大や権利が認められるようになりました。しかしそうした時代背景の中で、女性たちは新たな悩みや不安を抱えるようになります。彼女たちは、それらを解消するため「紅茶占い」に夢中になったのです。

ティーカップの部分に細工がされており、中から占いの例題と、その解説が登場します。カップの絵柄はシダや鳥などジャポニスムデザインです。1934年製。

紅茶占いをテーマにしたポストカード。カップの内側に茶殻が描かれています。猫、男性、蹄鉄……さて、モチーフの意味がもたらす結果とは? 1920年代の消印付き。

モチーフの意味をまとめた占いのマニュアル本も、複数の出版社から刊行されるようになります。紅茶会社は、占いの流行が紅茶の売り上げアップに繋がると捉え、自社の宣伝広告で紹介したり、紅茶占いのマニュアル本をノベルティグッズとして配布するなど、流行の後押しをしました。さらに、有名ファッション誌でも頻繁に取り上げられるなど、現存するそれら当時の資料からも、紅茶占いが一大ブームを巻き起こした様子がうかがえます。

紅茶占いをテーマにしたカードゲーム。カード1枚1枚に、紅茶占いの例題、解説が描かれています。1930年製。家族や友達と楽しんでいたのでしょうか。

子どもをテーマにしたカード。ロマ民族の少女がバレンタインの恋占いをしています。水晶占いと同様に紅茶占いは生活に定着していました。1920年代の消印付き。

また、茶殻のモチーフ占いは素人でもできましたが、より深刻な悩みを解決するため、紅茶占いを専門とするロマ民族の占い師も登場します。上流階級の人々は茶会の際に、プロの占い師を招いて場を盛り上げることもありました。

やがて二つの世界大戦を経て20世紀後半になると、イギリスで販売される紅茶はティーバッグスタイルが主流になります。ティーバッグは、茶殻がカップに入り込むことがないため、紅茶占いは次第に生活から遠ざかっていきます。そして現在では、その存在を知る人はほとんどいなくなってしまいました。映画『ハリー・ポッター』の中で取り上げられた影響で21世紀に再び注目されることになった紅茶占い。皆様もティータイムの際に、楽しんでみてはいかがでしょう?

column 映画や本の中の紅茶占い

1999年発行のJ・K・ローリング作による小説『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』第六章「鉤爪と茶の葉」では、魔法学校の占い学教授であるトレローニー先生がハリー達生徒に紅茶占いを教えるシーンがあります。占いの結果、ハリーのカップには死神犬(グリム)が読めると先生が不吉な予言をし、その後のストーリーの鍵となっていきます。2004年に同名の映画として全世界で公開上映されて以降、100年の時を超えて再び紅茶占いが注目されるようになりました。

また、イギリスでテレビ放映されたアガサ・クリスティ原作の『名探偵ポワロシリーズ』(1989年〜2013年)や、アメリカの人気テレビドラマ『フレンズ』(1994年〜2004年)にも度々紅茶占いのシーンが登場しています。映画や本の中にも、これまで見過ごしていた紅茶占いのシーンがまだまだ埋もれているかもしれませんね。

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